筋肉のエネルギー代謝や合成などに関与するBCAA(分岐鎖アミノ酸)とは?
BCAAとは、Branched Chain Amino Acidsの頭文字で、分岐が見られる構造から分岐鎖アミノ酸と呼ばれます。必須アミノ酸であるバリン、ロイシン、イソロイシンがこれにあたり、体内で合成できないため、食べ物から摂取する必要があります。 BCAAは運動する際に欠かせない成分で、筋肉のエネルギー代謝や合成などに関与します。また中枢性疲労の軽減や肝機能の向上などに効果があります。
BCAAの性質と働き
私たちの体は約10万種類のタンパク質からなります。これらは20種類のアミノ酸によって作られ、構成するアミノ酸の種類、数、アミノ酸の配列順序によって性質の異なるタンパク質が作られます。
20種類のアミノ酸のうち9種類(バリン、ロイシン、イソロイシン、リジン、スレオニン、メチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、トリプトファン)は必須アミノ酸と呼ばれ、体内で合成することができず、食事によって摂取しなければなりません。
必須アミノ酸であるバリン、ロイシン、イソロイシンは化学構造が枝分かれしており、BCAA(分岐鎖アミノ酸)と呼ばれ、筋肉に多く含まれます。
バリンは筋肉組織で代謝され、体力回復と健康維持に関与し、血液中の窒素バランスの調整する働きがあります。
ロイシンは強い筋肉タンパク質同化作用を持ち筋肉を強化する働きを持ちます。また、肝臓の機能を高める作用を持ちます。
イソロイシンは、体の成長を促進し、神経の働きをサポートします。また、血管を拡張したり、肝機能の向上、筋力強化の作用があります。
関連リンク:バリン | ロイシン | イソロイシン
BCAAには次のような働きがあります。
■筋肉の成長と維持
筋肉の成長と維持に欠かせないアミノ酸で、スポーツ選手にとって重要なアミノ酸です。筋たんぱく質に含有される必須アミノ酸のうち約35%をBCAAが占めています。
BCAAは肝臓ではほとんど代謝されず、筋肉で代謝されます。筋肉繊維を構成するタンパク質の主成分で、筋肉量の維持や筋力の増強に効果があります。
■エネルギー源となる
BCAAをエネルギーに変換できるのは筋肉と脳で、筋肉と脳がエネルギーを求めていれば、BCAAはこれらの組織にエネルギーを供給することができます。
運動中は、筋肉に蓄えられているグリコーゲンが分解されてエネルギーとして使われますが、足りなくなると筋タンパク質の分解が進み、BCAAをエネルギー源として使います。
運動前にBCAAを摂取するとBCAAが筋肉中で分解され、筋タンパク質の分解が抑制されます。
■中枢性疲労を軽減する効果
中枢性疲労は疲労物質であるセロトニンはトリプトファンから合成され、脳内で増加します。
通常はBCAAの血液濃度は高いですが、運動によってBCAA濃度が低下すると脳内にトリプトファンの取り込みが増え、セロトニンが増加して中枢性疲労の促進、集中力の低下を招きます。
運動前にBCAAを摂取することによって、中枢性疲労の予防もしくは回復に効果的であると考えられています。
■肝機能の向上、神経の働きをサポート
BCAAは肝臓の働きを高め、肝臓への負担を減らす効果があります。
肝不全の患者においてはBCAAの血中濃度が低く、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファンが高く、BCAAの投与は肝不全に伴う脳症の発症予防に利用されています。
また、神経の働きを補助し、高めることで判断力や反射速度を向上する効果があります。
BCAAを含む食品
BCAAは肉・魚・卵・大豆製品、牛乳などタンパク質源となる食品に含まれます。
食品中のBCAA含量
※可食部の値、表記のないものは100gあたり)
食品名 | BCAA(mg) | バリン | ロイシン | イソロイシン |
---|---|---|---|---|
まぐろ赤身生 刺身約8切れ | 4800 | 1400 | 2100 | 1300 |
かつお | 4300 | 1300 | 1100 | 1900 |
あじ 中1 匹 | 3760 | 1100 | 960 | 1700 |
サンマ生 中1 匹 | 3650 | 1100 | 1600 | 950 |
鶏肉(胸肉) | 4300 | 1200 | 1900 | 1200 |
鶏肉(もも肉) | 3290 | 910 | 1500 | 880 |
牛肉(サーロイン) | 2360 | 650 | 1100 | 610 |
卵 1 個(50g) | 2610 | 830 | 1100 | 680 |
凍り豆腐 1 枚(16g) | 1600 | 448 | 720 | 432 |
納豆 1パック(50g) | 1305 | 415 | 550 | 340 |
木綿豆腐 1/4 丁 | 1210 | 330 | 560 | 320 |
牛乳 コップ1 杯(200ml) | 1360 | 400 | 620 | 340 |
チーズ 小1個(20g) | 1020 | 320 | 460 | 240 |
※独立行政法人 環境再生保全機構HPより
9種類の必須アミノ酸のバランスのことをアミノ酸スコアといいます。それぞれのアミノ酸が全て必要量を満たしていれば、アミノ酸スコア100となります。
主な食品のアミノ酸スコア
穀類 | 豆類 | 魚類 | |||
---|---|---|---|---|---|
玄米 | 68 | 枝豆 | 92 | アジ | 100 |
精白米 | 65 | おから | 91 | イワシ | 100 |
食パン | 44 | 豆乳 | 86 | サケ | 100 |
穀類 | 豆類 | 魚類 | |||
鶏肉 | 100 | ブロッコリー | 80 | 牛乳 | 100 |
豚肉(ロース) | 100 | にら | 77 | ヨーグルト | 100 |
牛肉(サーロイン) | 100 | ピーマン | 68 | 卵 | 100 |
魚類や肉類、乳性品、卵などは、非常にアミノ酸バランスの良い食品です。アミノ酸スコア100の卵は、手軽に料理できる食品です。
一定の食品だけを取るのではなく、必須アミノ酸が不足している食品は、補い合うように組み合わせて摂取し、バランスの良い食生活を心がけましょう。
運動前の一時的な補給ではなく、1日3食しっかりと食べることでBCAAを摂取することができます。
BCAAの摂取と食べ合わせ
どのようなアミノ酸がどれだけ必要かと示したFAO/WHO/UNU(1985)が発表したアミノ酸評価点パターンによると、成人でバリンとは13mg/gタンパク質、ロイシンは19mg/gタンパク質、イソロイシン13mg/gタンパク質としています。
関連リンク:バリン | ロイシン | イソロイシン
厚生労働省ではBCAAの摂取量は定められていませんが、大塚製薬の研究において、BCAAは摂取30分後に血中濃度がピークになるので、運動30分前~運動中にBCAAを2000mg以上摂取すると効果的と考えられています。
BCAAと同様にエネルギーの源となるビタミンB1、ビタミンB2と一緒に摂取すると効果的です。ビタミンB1は豚肉、うなぎのかば焼きなどに、ビタミンB2はレバーなどに多く含まれます。
関連リンク:ビタミンB1 | ビタミンB2
BCAAの過剰症、欠乏症
BCAAのうち単体のアミノ酸を多量に摂取すると、他のBCAAとのバランスが崩れ、かえってアミノ酸不足の状態が出現したと体が錯覚することがあります。
体重が減少したり、免疫機能の低下を招くことがあるので、偏った過剰摂取は注意しましょう。
BCAAは幅広い食品に含まれているため、通常の食生活では不足することありませんが、極端なタンパク質制限や、激しい運動をすると欠乏することがあります。不足すると免疫機能の低下や神経障害を招く恐れがあります。
メープルシロップ尿症(分岐鎖ケト酸尿症)においては痙攣や神経的作用を生じることがあるので分枝鎖アミノ酸を制限して、血中のロイシンの濃度を調節します。また、妊娠中・授乳中の大量摂取は控える必要があります
メープルシロップ尿症
先天性代謝異常症のひとつで体内に分枝鎖アミノ酸とケト酸が蓄積され、尿や汗がメープルシロップのようなにおいを呈します。哺乳開始後数日で哺乳力の低下、元気がない、機嫌が悪い、嘔吐などが見られます。
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フィッシャー比
分岐鎖アミノ酸であるBCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)と非必須アミノ酸の中の芳香族アミノ酸であるAAA(フェニルアラニン、チロシン)のバランスをみるための指標です。
フィッシャー比はBCAA/AAAで求められ、2.5~3.5が正常値です。
肝臓の機能が低下すると肝臓のアミノ酸代謝異常が起こりAAAの血中への供給量が増え、筋肉や心臓において分枝鎖アミノ酸が分解されることから、フィッシャー比の値は低下します。