鉄
鉄とは、赤血球を構成する成分となり、全身の細胞や組織に酸素を運ぶ役割をしています。また、筋肉が収縮したりコラーゲンを合成したりするのを助ける働きもあります。 鉄不足になると、貧血を招くうえに筋力低下の原因にもなります。月経時に一緒に体内から排出されるため、女性にとって不足しやすい栄養素です。
鉄の働きと性質
鉄は小腸で吸収されますが、体内での吸収率は平均して約8%と非常に低く、欠乏しやすいミネラルです。
栄養素としての鉄は、肉や魚などの動物性食品に含まれる「ヘム鉄」と、ひじきやほうれん草、プルーンなど野菜や穀類などに含まれる「非ヘム鉄」に分けられます。
この2つには吸収率の違いがあり、ヘム鉄は約23%、非ヘム鉄の吸収率は約5%と、ヘム鉄が、3~5倍効率良く圧倒的に吸収率がよくなっています。
非ヘム鉄は、体内での必要量に応じて吸収量が変化し、妊娠時など必要量が増加する時には体内への吸収率がアップするといわれています。
鉄の機能としては以下の様なものがあります。
酸素を運搬する
体内でエネルギーを産み出すには、ほとんどの場合酸素が必要です。体内の鉄の約3分の2が血液中で赤血球のヘモグロビンの構成成分となり、肺で取り込んだ酸素を全身の細胞や組織に運ぶ重要な役割をしています。
鉄はヘモグロビンの材料となっているため、鉄が不足すると、血液中のヘモグロビンの量や、赤血球の数が減ってしまいます。これを鉄欠乏性貧血といいます。
貧血になると、体内に十分な酸素を送れなくなるため、産み出せるエネルギーの量が低下し、集中力低下や頭痛、めまい、といった症状が表れます。
筋肉を収縮させる
鉄は、筋肉中のミオグロビンというたんぱく質の構成成分として、血液中の酸素を筋肉に取り込む働きもあります。鉄が不足すると酸素をうまく取り込めず、筋力低下や疲労感といった症状が表れます。
体内の様々な代謝にかかわる
体内に存在する鉄のうち約0.3%は、いろいろな酵素を活性化したり、酵素の構成成分となっています。鉄を含む酵素は、神経伝達、コラーゲンの合成など様々な代謝にかかわっています。
鉄の食事摂取基準
性別 | 男性 | 女性 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
年齢 | 推定平均 必要量 | 推奨量 | 目安量 | 耐用 上限量 |
推定平均 必要量 | 推奨量 | 目安量 | 耐用 上限量 |
0〜5ヶ月 | - | - | 0.5 | - | - | - | 0.5 | - |
6〜11ヶ月 | 3.5 | 5.0 | - | - | 3.5 | 4.5 | - | - |
1〜2歳 | 3.0 | 4.5 | - | 25 | 3.0 | 4.5 | - | 20 |
3〜5歳 | 4.0 | 5.5 | - | 25 | 3.5 | 5.0 | - | 25 |
6〜7歳 | 4.5 | 6.5 | - | 30 | 4.5 | 6.5 | - | 30 |
8〜9歳 | 6.0 | 8.0 | - | 35 | 6.0 | 8.5 | - | 35 |
10〜11歳 | 7.0 | 10.0 | - | 35 | 7.0 (10.0) | 10.0 (14.0) | - | 35 |
12〜14歳 | 8.5 | 11.5 | - | 50 | 7.0 (10.0) | 10.0 (14.0) | - | 50 |
15〜17歳 | 8.0 | 9.5 | - | 50 | 7.0 (10.0) | 10.0 (10.5) | - | 40 |
18〜29歳 | 6.0 | 7.0 | - | 50 | 5.0 (8.5) | 6.0 (10.5) | - | 40 |
30〜49歳 | 6.5 | 7.5 | - | 55 | 5.5 (9.0) | 6.5 (10.5) | - | 40 |
50〜69歳 | 6.0 | 7.5 | - | 50 | 5.5 (9.0) | 6.5 (10.5) | - | 40 |
70歳〜 | 6.0 | 7.0 | - | 50 | 5.0 | 6.0 | - | 40 |
妊婦 (初期) |
- | - | - | - | +2.0 | +2.5 | - | - |
妊婦 (中期・後期) |
- | - | - | - | +12.5 | +15.0 | - | - |
授乳婦 | - | - | - | - | +2.0 | +2.5 | - | - |
*括弧内は、月経ありの場合の摂取基準
*過多月経(月経出血量が 80 mL/回以上)の人を除外して策定
成人男性では、7.0~7.5mg/日(成人男性)、成人女性は10.5mg/日が推奨されています。
女性は、妊娠、授乳、月経時で必要量が異なり、通常持よりも多く摂取する必要があり不足しがちです。
鉄が多く含まれる食材
以下の順で記述します。
- 品名
- 含有量(100gあたり/mg)
- 1食あたりの目安重量(g)
- 1食あたりの成分含有量(mg)
- 牛レバー
- 4mg
- 50g
- 4mg
- 豚レバー
- 13.0mg
- 50g
- 6.5mg
- 鶏レバー
- 9mg
- 50g
- 4.5mg
- カツオ
- 1.9mg
- 80g
- 1.5mg
- イワシ
- 1.8mg
- 80g
- 1.4mg
- がんもどき
- 3.6mg
- 80g
- 2.9mg
- ほうれん草
- 2.9mg
- 1/2束(100g)
- 2.0mg
- アサリ
- 3.8mg
- 50g
- 1.9mg
- 卵
- 1.8mg
- 60g(1個)
- 1.08mg
- 卵黄
- 6mg
- 17g(1個)
- 1.02mg
鉄の過剰摂取
鉄はもともと体内に吸収されにくく、必要以上に吸収されない仕組みもあるため、通常の食事をしていて摂り過ぎることはありません。
ただし、サプリメントなどで過剰にとり続けていると、鉄沈着症、肝障害、亜鉛など他のミネラルの吸収阻害、幼児の場合は急性中毒を起こします。
鉄の欠乏症
鉄不足は、世界的に多くみられる欠乏症です。鉄が不足すると鉄欠乏性貧血を起こします。
成人女性の3人に1人が献血不適の貧血であり、その内の80%以上が鉄欠乏性の貧血だと言われています。
体内に存在する鉄には、全身に酸素を運ぶ「機能鉄」と筋肉や肝臓などに蓄えられている「貯蔵鉄」があります。鉄の摂取不足が続くと酸素を運ぶ機能鉄が減少してくるため、不足を貯蔵鉄が補います。この状態が続くと目まい、疲労感、さらには免疫力低下により、顔色が悪くなったりします。
鉄の食べ合わせ
非ヘムはビタミンCと一緒に摂ると吸収がよくなります。タンパク質にも鉄吸収を高める効果があります。
また、緑茶やコーヒー、ウーロン茶などに含まれるタンニン、穀物に含まれているフィチン酸などは鉄吸収を妨げるといわれています。
関連リンク: ビタミンC | タンパク質
鉄の関連キーワード
ヘモグロビン
ヘモグロビンは赤血球の成分の1つで「血色素」とも呼ばれます。血液の赤い色は赤血球に含まれるヘモグロビンの影響であり、赤血球を動かすメインの成分です。
ミオグロビン
筋肉中にあって酸素を代謝に必要な時まで貯蔵する役割。ヘモグロビンと同じ色素タンパク質。ヘモグロビンよりも酸素との結合力が強いため、ヘモグロビンから酸素を受取ることができる。動物の筋肉が赤いのは、このミオグロビンの色によるもの。
機能鉄
血液や筋肉内に含まれる(70%)(酸素運搬と酵素機能)
貯蔵鉄
肝臓や脾臓、骨髄、筋肉に蓄えられる
組織鉄
髪の毛や爪などの組織に含まれ、組織成分となっている