「はじめのひとくち」の海外事情

前回のコラムでは離乳食の日本の基準と、開始の時期についてお話しさせて頂きました。そこで今回は、日本での離乳食と比べた「海外での離乳食」をお伝えします。



海外と日本の離乳食の違い

日本では、離乳食が始まると「おかゆ」を食べさせる習慣があります。また、月齢ごとの「目安量」「固さ」「食品の種類」などを解説するガイドブックも日本では、かなり丁寧に制作されています。

それでは、海外ではどのように離乳食が進められ、どんな離乳食があるのでしょうか?
今回は、海外に住んでいる友人、知人に「海外での離乳食事情」の話を聞き、海外版の「はじめのひとくち」をまとめてみました。

アメリカの「はじめのひとくち」

アメリカでは、市販の瓶詰のベビーフードに利用できる月齢が表示されていてそれを目安に利用し、離乳食の種類も日本の5倍以上のものがあります。手作りよりもこのような瓶詰のベビーフードが主流となり、主治医と相談しながら早い場合には開始する時期も4か月頃から始まります。

そしてベビーフードの内容は、主にニンジンやグリンピース、ポテトなどをペースト状にしたもの。混合された内容の離乳食はあまり見かけず、食材一種類の単品を一日3回与えます。また最近では、栄養のある水で溶かして作る「ライスシリアル(お米のシリアル)」なども販売されています。
(アメリカ ロサンゼルス Kさん)

韓国の「はじめのひとくち」

韓国では、日本と同じように「おかゆ」が最初の離乳食です。離乳食開始の時期は日本と同じく5.6か月頃と言われていますが、母からは100日たった頃から、母乳の中におかゆを混ぜたものを徐々に与えていたという話も聞きました。その後は、混ぜたスープやペーストにした野菜などを徐々に与えていきますが、日本よりもアレルギーに対してあまり神経質になっていないため、肉などのたんぱく質の進め方が少し早い様に感じられました。
(韓国ソウル Lさん)

ドイツの「はじめのひとくち」

ドイツの離乳食は、日本と同じでベビーフードが一般的です。ドイツ料理やフルーツ味のペースト状。始めるタイミングも日本と大差ないかな。

離乳食関連で国としての取り組みとして、食品安全規制に関して言えば、これも特段日本とか他の先進国と同じレベルだと思います。ドイツの場合は「Bio」というオーガニック食品規格(これも複数の規格があるのだが)があってその「Bio」準拠のベビーフードというのは一種のトレンドになっています。しかし私がドイツに最後にいた2010年頃には、大手スーパーにも出回るようになっていて、マーケティングに過ぎない(本当の意味での「Bio」じゃない)という冷めた見方もされつつありました。離乳食のマーケットで特に、ドイツが他国と違ってというのはあんまり思いつかないかな。

それから「離乳食」というか「乳幼児食」はドイツでの言葉は簡単で「Babynahrung」のようです。産後の離乳食指導は、多くの健康保険では助産婦(Hebamme ヘバメ)によるサポートがセットされていて、私の記憶では確か1年目くらいまで、定期的にやってきてお風呂とか育て方から食事まで色々と教えてくれるようになっていました。
(ドイツ ドュッセルドルフ Kさん)

シンガポールの「はじめのひとくち」

シンガポールは主に中華系、マレー系、インド系などからなる多民族国家でなりたっているため離乳食についても様々で、共働きが 普通というお国柄なためか、瓶詰めやレトルトのベビーフードの人気があるみたいです。

スーパーマーケットに行くと、ローカルのもの・欧米系のもの・日本のものというように色々とあります。これも日本の常識とは大きく異なりますよね。

日本だと最初は母親の手作りが一番という文化とは違い そういった考えは全くないようです。こちらで住む日本人は日本のマーケットで、日本のものを買う家庭も多くいます。しかし、これらは輸入品となるため日本製は、すべてが2倍以上のお値段で売られています。
それでも 外国人にも人気があります。ここでは、日本のもの=安心できる良い物というイメージが強いようです。ちなみに日本の大根は、シンガポールでは、1本800円くらいします。

シンガポール人に限って例を挙げるならば、 離乳食の主食は、おかゆの他にシリアルの粉状なものにお湯で溶いたものなどです。日本人的感覚ではびっくりするくらい 早い段階でフルーツを食べさせるおうちもあると聞きます。それも南国フルーツなどのような日本では、ちょっとアレルギーの心配のあるものまでもあげています。極めつけ(私が最もびっくりして未だにひいてしまうのが)が、1歳になる前に、もう既にホーカーセンター(現地食の屋台)にデビューをさせてしまうところが多い!こと。

両親が共働きで、赤ちゃんを面倒見るのがお爺ちゃんやお婆ちゃんが多いです。さらにもともと、自炊することよりもホーカーセンターが、日常の台所となっているシンガポール人にとっては、普通な発想らしいです。私個人の意見としては 味の素たっぷりなヌードルやお粥を(しかも衛生的に不安定な屋台で)普通に食べさせちゃうのはかなり抵抗あるなぁと・・・

よって ローカルの人たちは 早い段階で濃い味付けになれてしまうのはもちろんのこと、そこで使われるチリなどの辛味にも慣れていくのも 子供のうちからと聞いています。
(シンガポール Tさん)

優れた日本の離乳食事情

このように海外での離乳食を調べてみてわかったことは、米が主食である日本をはじめアジア諸国は「はじめのひとくち」に「おかゆ」を与えることが一般的であったこと。そして他の国でも同様に、離乳食の開始にはその国の主食として食されている食材が多く使われていたことがわかりました。これはその国の食習慣に基づき、その土地でとれた材料や調理方法で消費する「地産地消(ちさんちしょう)」の形の根本となるのではないでしょうか。

またシンガポールなど、多国籍の人種が集まる国ではその種類や習慣の多様性も見られます。多くの国で、その土地でとれた食材をまず第一歩の離乳食のスタートにしていますが、その人種のソウルフードを「はじめのひとくち」にしていること。そこには、その赤ちゃんの大人になってからの食生活においても大変意味のあるものだと感じます。

さらに、調べてみると日本のような「離乳食」という形できちんとステップをふみながら国で定めた目安を細かく決めている方法があるのを、海外ではあまり聞きませんでした(今回は数人のインタビューでしたので、他にもあるのかもしれませんが・・)

次回は 03. 赤ちゃんにとってなぜ離乳食が必要か? をお伝えいたします。

おわりに

このように、日本では子どもの健康を守るために厚生労働省がガイドブックを作成し、国の子どもの検診や病院等で、支援する取り組みが行われています。 次回からは、海外での離乳食もあわせて参考にしながら、日本での離乳食の取り組みを細かくご紹介していきます。





この記事を書いた人
松下 和代
松下 和代

栄養士・調理師・保育士・食品アドバイザー

食事は、「心のこもった温かい手で」をモットーに、栄養士取得後、包丁とギターを抱えて、児童養護施設に住み込みで働く。さらに、栄養士として実績をつむために、ミルク会社のメールマガジンの編集・栄養・保育の相談を担当して、栄養相談の実績をつむ。三人の子のママ。